日本の五音音階について(ペンタトニック)
日本の5音音階について勉強する機会があったので、簡単にまとめてみます。
ドビュッシー以降の西洋の作曲家の影響もあり、アジアの音楽は5音音階で出来ていると思いがちですが、実は純粋な5音音階で出来ている曲は一部であり、大部分のものはもっと多くの音が使われています。それは日本音楽においても状況は同じです。
西洋の東洋に対するステレオタイプの見方(オリエンタリズムなどに代表される)に、私たちも知らない間にかなり影響をうけています。
また、5音音階で出来た曲は東洋のみならず、世界のいたるところでみられます。例えば、アメージンググレースや蛍の光なども5音音階の曲です。
日本の音階はかなり奥が深く、西洋音楽を専門とする私にはなかなか掴みきれないところが多いので、今回は5音音階について大まかに見てゆきます。
1、中国での成立
2、日本へ伝来
3、小泉文夫のテトラコード理論
4、さまざまな音楽における例
『音階』という概念がいつできたのかははっきりしないが、1オクターブや完全四、五度といった音程を正確に計測したのは、ヨーロッパではピタゴラス(紀元前582−496)が最初であり、アジアでは古代中国の誰かが発明した『三分損益法』が最初である。この三分損益法は、紀元前239年の『呂氏春秋』で触れられている。
ピタゴラスは弦の長さを変えることで音程の違いを計測したのに対し、中国では片側を塞いだ管を吹いて音を計測していた。管を用いた方法はあまりせいかくではなかったために、後にピタゴラスと同じく計測のために弦が用いられるようになった。
管や弦の長さを変えると音程が変わる。例えば、同じ太さで長さが半分のものは1オクターブ高い音が出る。そして2/3の長さにすると完全五度上の音程になる。
管や弦の長さが音の周波数に比例するということである。
やや難しいが、例えば、440Hz のラがでる管が 30cm の長さであったとしたら、15cm に切れば 880Hz の1オクターブ上のラの音になり、30cm の 2/3の長さである20cm に切れば、完全五度上の 660Hz のミの音になる。
逆に、3/2 の長さに長くすれば、完全五度低い音が出る。
たとえば、上の例の30cmの管を 3/2 倍の長さである 45cm に伸ばせば、ラから完全五度低いレの音が出る。
管を3分の1短くしたり長くしたりするので、三分損益法という。
なぜ完全五度やオクターブを用いるのかというと、これらの音程は2音が同時に鳴らされた時に音程が正確であれば音色がうねることが無いからである。
この理論を拡大させたのが、古代中国の易経の大家であった京房(Jing Fang,紀元前78−前38)である。
京房はこの三分損益法を突き詰め、1オクターブを60等分した音階を作った(六十律)。
これは今日では幾つかの音に理論的に誤りがあり、いくつかほとんど同じ音であったため、53平均律であるが、約1700年後にヨーロッパでメルカトル(1620−1687)がこれを正確に計測した。
ちなみに京房が六十律を作ったのは音楽のためでなく、易経で気を占うためであった。
はっきりとした記録は残っていないが、5世紀頃から中国や朝鮮から儀式用の音楽や舞踊が日本へ伝わり、唐楽、高麗楽などとして広まっていった。また8世紀ごろに伝来したベトナムからの林邑楽やインドの仏教音楽も伝わり、やがて雅楽寮(いまの音大のような機関)が設立され、雅楽、声明、などとして日本の音楽に取り入れられていった。
『テトラコード』とは、古代ギリシア語で『4つの弦』という意味であり、完全四度のうちに3つの音程があるものであった。
小泉文夫はこの理論を、とらえどころのない日本の5音音階に応用し、完全四度のうちに2つの音程を持つ4つの音階に分類した。
都節は、完全4度(上の例ではレとソ、ラとレ)のうちに短2度と長3度からなる2つのテトラコードで構成され、律では長2度と短3度、民謡では短3度と長2度、琉球では長3度と短2度で構成されている。
これらはあくまで大まかな分類ではあるが、割と応用が利く理論である。しかし、小泉文夫の死後、なかなかこの理論が詳細に研究され発展しているとは言いがたく、日本の音楽をさらに体系的にとらえることのできる理論が望まれる。
では上の4つの音階が用いられている例を見てゆく。
例えば、誰でも知っている江戸子守唄や、さくらは都節である。
私の主観では、いわるゆ芸術的な音楽に使われる傾向がある。
以上、大まかであり、また私の個人的な見解もあり不正確な部分もありますが、少しでも日本の伝統的な音楽、そして文化、芸能に興味を持っていただけたら幸いです。
私は音大時代に、『日本音楽史』という授業が必須であり、日本音楽に明るい教授に習ったことをいまではほとんど忘れてしまっていることを大変後悔しており、また折に触れて日本の文化に対する理解を深めていければと思っております。
5音音階とは
ドビュッシー以降の西洋の作曲家の影響もあり、アジアの音楽は5音音階で出来ていると思いがちですが、実は純粋な5音音階で出来ている曲は一部であり、大部分のものはもっと多くの音が使われています。それは日本音楽においても状況は同じです。
西洋の東洋に対するステレオタイプの見方(オリエンタリズムなどに代表される)に、私たちも知らない間にかなり影響をうけています。
また、5音音階で出来た曲は東洋のみならず、世界のいたるところでみられます。例えば、アメージンググレースや蛍の光なども5音音階の曲です。
日本の音階はかなり奥が深く、西洋音楽を専門とする私にはなかなか掴みきれないところが多いので、今回は5音音階について大まかに見てゆきます。
1、中国での成立
2、日本へ伝来
3、小泉文夫のテトラコード理論
4、さまざまな音楽における例
1、中国での成立
『音階』という概念がいつできたのかははっきりしないが、1オクターブや完全四、五度といった音程を正確に計測したのは、ヨーロッパではピタゴラス(紀元前582−496)が最初であり、アジアでは古代中国の誰かが発明した『三分損益法』が最初である。この三分損益法は、紀元前239年の『呂氏春秋』で触れられている。
ピタゴラスは弦の長さを変えることで音程の違いを計測したのに対し、中国では片側を塞いだ管を吹いて音を計測していた。管を用いた方法はあまりせいかくではなかったために、後にピタゴラスと同じく計測のために弦が用いられるようになった。
管や弦の長さを変えると音程が変わる。例えば、同じ太さで長さが半分のものは1オクターブ高い音が出る。そして2/3の長さにすると完全五度上の音程になる。
管や弦の長さが音の周波数に比例するということである。
やや難しいが、例えば、440Hz のラがでる管が 30cm の長さであったとしたら、15cm に切れば 880Hz の1オクターブ上のラの音になり、30cm の 2/3の長さである20cm に切れば、完全五度上の 660Hz のミの音になる。
逆に、3/2 の長さに長くすれば、完全五度低い音が出る。
たとえば、上の例の30cmの管を 3/2 倍の長さである 45cm に伸ばせば、ラから完全五度低いレの音が出る。
管を3分の1短くしたり長くしたりするので、三分損益法という。
なぜ完全五度やオクターブを用いるのかというと、これらの音程は2音が同時に鳴らされた時に音程が正確であれば音色がうねることが無いからである。
この理論を拡大させたのが、古代中国の易経の大家であった京房(Jing Fang,紀元前78−前38)である。
京房はこの三分損益法を突き詰め、1オクターブを60等分した音階を作った(六十律)。
これは今日では幾つかの音に理論的に誤りがあり、いくつかほとんど同じ音であったため、53平均律であるが、約1700年後にヨーロッパでメルカトル(1620−1687)がこれを正確に計測した。
ちなみに京房が六十律を作ったのは音楽のためでなく、易経で気を占うためであった。
2、日本への伝来
はっきりとした記録は残っていないが、5世紀頃から中国や朝鮮から儀式用の音楽や舞踊が日本へ伝わり、唐楽、高麗楽などとして広まっていった。また8世紀ごろに伝来したベトナムからの林邑楽やインドの仏教音楽も伝わり、やがて雅楽寮(いまの音大のような機関)が設立され、雅楽、声明、などとして日本の音楽に取り入れられていった。
3、小泉文夫のテトラコード理論
『テトラコード』とは、古代ギリシア語で『4つの弦』という意味であり、完全四度のうちに3つの音程があるものであった。
小泉文夫はこの理論を、とらえどころのない日本の5音音階に応用し、完全四度のうちに2つの音程を持つ4つの音階に分類した。
都節は、完全4度(上の例ではレとソ、ラとレ)のうちに短2度と長3度からなる2つのテトラコードで構成され、律では長2度と短3度、民謡では短3度と長2度、琉球では長3度と短2度で構成されている。
これらはあくまで大まかな分類ではあるが、割と応用が利く理論である。しかし、小泉文夫の死後、なかなかこの理論が詳細に研究され発展しているとは言いがたく、日本の音楽をさらに体系的にとらえることのできる理論が望まれる。
4、さまざまな音楽における例
では上の4つの音階が用いられている例を見てゆく。
都節
私の主観ではあるが、都節は今でいうポップスのような性格を持つ音楽に用いられていることが多い気がする。例えば、誰でも知っている江戸子守唄や、さくらは都節である。
江戸子守唄
律
律とは基準となる音階という意味があり、中国から伝わった形を残している。私の主観では、いわるゆ芸術的な音楽に使われる傾向がある。
越天楽(1分50秒付近から)
民謡
民謡音階は、その名の通り土地に根付いていた伝統的な歌や劇音楽に用いられる傾向があると思う。
土蜘蛛(26分45秒付近から)
琉球
沖縄は第2次大戦後まで琉球という、日本とは別の国であり、本土とは違う文化を持っていた。それは音楽にも濃く現れている。また、琉球音階はジャワ島のガムラン音楽のペロッグ音階とほぼ同じような構成になっていることも興味深い。
女踊り
以上、大まかであり、また私の個人的な見解もあり不正確な部分もありますが、少しでも日本の伝統的な音楽、そして文化、芸能に興味を持っていただけたら幸いです。
私は音大時代に、『日本音楽史』という授業が必須であり、日本音楽に明るい教授に習ったことをいまではほとんど忘れてしまっていることを大変後悔しており、また折に触れて日本の文化に対する理解を深めていければと思っております。