通奏低音
他の時代の音楽には見られないバロック音楽の最も大きな特徴は、通奏低音を伴っているということでしょう。
通奏低音とは、イタリア語では「バッソ コンテヌオ(basso continuo)」、ドイツ語では「ゲネラルバス (Generalbass)」と呼ばれ、これらの言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃると思います。
J.S.バッハのフルートソナタにも、フルートと通奏低音のためのソナタが3曲(BWV1033~1035、ハ長調、ホ短調、ホ長調のソナタ)があります。
これらのソナタのオリジナルの楽譜を覗いてみると、フルートと低音声部のみが書かれており、現代の楽器店で手に入るほとんどの楽譜に書いてあるピアノ伴奏譜は見当たりません。
この楽譜の上の段の声部はフルートで演奏され、下の段の声部はチェンバロなどの鍵盤楽器の左手と、チェロやヴィオラダガンバ、ファゴット等の低音楽器で演奏されます。
その際、鍵盤楽器の右手で和音をつけて演奏します。
これが通奏低音の一般的な形です。
鍵盤楽器で和音をつけて演奏することを「リアライズ」と呼びます。
リアライズの際には、演奏者は自由に、即興的に和音や旋律を演奏することができます。
ただし、自由と言ってもある程度の規則があるので、音楽的な美しいリアライズをするためには、鍵盤楽器奏者は長い時間をかけて勉強しなければなりません。
さて、上掲の楽譜の低音声部には何も書かれておらず、演奏者が和音をつける際にはどんな和音も自由につけることができます。
逆にどんな和音をつけて良いか、明快に指示されてはいないため、未熟な者にとっては誤った和音を弾いてしまう可能性が大きいとも言えます。
そのため、どのような和音を弾けば良いかを明確に示すために、作曲家(または楽譜校訂者や編曲者)が低声部に数字を書く必要があります。
これを数字付き低音といい、イタリア語では「basso numerato」、ドイツ語では「bezifferter Bass」、英語では「figured bass」と呼ばれます。
この楽譜には、7や6、5といった数字や、♯の記号が書き込まれていますが、これはどの和音を弾けば良いか明確に指示しています。
数字付き低音とは、現代のポピュラー音楽で使われているCmやD♯7などのコードネームに似ているものだと考えるとわかりやすいです。
上掲楽譜の数字に基づいて、和音を書き起こした一例を掲載します。
これはあくまで私による例であり、ブライトコプフやベーレンライター版の有名な校訂者によるリアライズははるかに洗練されているので、覗いてみてください。
橋本英二による名著『バロックから初期古典派までの音楽の奏法―当時の演奏習慣を知り、正しい解釈をするために』によれば、通奏低音という名称が音楽史の中に初めて現れたのは、イタリア人のロドヴィゴ・ヴィアダーナによる1602年に出版された作品『100曲の教会コンチェルト集(Cento concerti ecclesiastici)』が発端とされているそうです。
しかし、通奏低音はヴィアダーナの発明ではなく、ヴィアダーナ以前にも用いられていたそうですが、この「100曲の教会コンチェルト集」は、当時の芸術文化の最先端の街であったヴェネツィアのみならず文化的後進国であったドイツにまで大きな影響を及ぼしました。
そして通奏低音の流行とともに、音楽の様式はルネサンスからバロック時代へと時代は移って行きます。
通奏低音を学ぶために参考になる本の情報です。
・カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ 正しいクラヴィーア奏法 第二部
クラシック音楽に携わる人には必読の一冊です。J.S.バッハの息子カール フィリップ エマニュエル バッハはモーツァルトをして「彼は父であり、我々は子供だ」と言わしめたほど、後世に大きな影響を及ぼしましたが、彼自身はヨハンセバスチャンの指導があったからこそ自分は大成できたと語っています。
そんな彼が書き残したクラビーア奏法の手引書は、楽器奏法のみならず音楽の真髄を語っています。
・ゲオルク・フィリップ・テレマン 通奏低音の練習 -歌いながら、弾きながら-
残念ながら2016年7月現在は絶版となっていますが、バロックの3大作曲家の一人、テレマンによる通奏低音の学習書です。もし手に入れることができれば、テレマンのフルート作品を勉強する上でも大いに役立つでしょう。
余談ですが、上述のカール フィリップ エマニュエル バッハの「フィリップ」は、テレマンにちなんで名付けられました。
・和声―理論と実習 (3)
有名な「芸大和声」の第三巻です。和声法の知識があれば通奏低音を理解することも難しくはないでしょう。高価かつ難解な本ですが、和声に関するあらゆることを専門的に学ぶためには必読の書です。
通奏低音とは、イタリア語では「バッソ コンテヌオ(basso continuo)」、ドイツ語では「ゲネラルバス (Generalbass)」と呼ばれ、これらの言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃると思います。
通奏低音とは?
通奏低音とは何かご存知でしょうか?
通奏低音とはバロック時代に流行したスタイルで、バス声部の上に自由に和音や旋律を即興で演奏する様式ですが、言葉で説明するよりも具体的な例を見た方がわかりやすいと思います。
J.S.バッハのフルートソナタにも、フルートと通奏低音のためのソナタが3曲(BWV1033~1035、ハ長調、ホ短調、ホ長調のソナタ)があります。
これらのソナタのオリジナルの楽譜を覗いてみると、フルートと低音声部のみが書かれており、現代の楽器店で手に入るほとんどの楽譜に書いてあるピアノ伴奏譜は見当たりません。
J.S.Bach : フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BVW.1034 より冒頭 |
その際、鍵盤楽器の右手で和音をつけて演奏します。
これが通奏低音の一般的な形です。
鍵盤楽器で和音をつけて演奏することを「リアライズ」と呼びます。
リアライズの際には、演奏者は自由に、即興的に和音や旋律を演奏することができます。
ただし、自由と言ってもある程度の規則があるので、音楽的な美しいリアライズをするためには、鍵盤楽器奏者は長い時間をかけて勉強しなければなりません。
数字付き低音
さて、上掲の楽譜の低音声部には何も書かれておらず、演奏者が和音をつける際にはどんな和音も自由につけることができます。
逆にどんな和音をつけて良いか、明快に指示されてはいないため、未熟な者にとっては誤った和音を弾いてしまう可能性が大きいとも言えます。
そのため、どのような和音を弾けば良いかを明確に示すために、作曲家(または楽譜校訂者や編曲者)が低声部に数字を書く必要があります。
これを数字付き低音といい、イタリア語では「basso numerato」、ドイツ語では「bezifferter Bass」、英語では「figured bass」と呼ばれます。
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この楽譜には、7や6、5といった数字や、♯の記号が書き込まれていますが、これはどの和音を弾けば良いか明確に指示しています。
数字付き低音とは、現代のポピュラー音楽で使われているCmやD♯7などのコードネームに似ているものだと考えるとわかりやすいです。
上掲楽譜の数字に基づいて、和音を書き起こした一例を掲載します。
上掲の数字付き低音をリアライズした例 |
これはあくまで私による例であり、ブライトコプフやベーレンライター版の有名な校訂者によるリアライズははるかに洗練されているので、覗いてみてください。
通奏低音の歴史
橋本英二による名著『バロックから初期古典派までの音楽の奏法―当時の演奏習慣を知り、正しい解釈をするために』によれば、通奏低音という名称が音楽史の中に初めて現れたのは、イタリア人のロドヴィゴ・ヴィアダーナによる1602年に出版された作品『100曲の教会コンチェルト集(Cento concerti ecclesiastici)』が発端とされているそうです。
しかし、通奏低音はヴィアダーナの発明ではなく、ヴィアダーナ以前にも用いられていたそうですが、この「100曲の教会コンチェルト集」は、当時の芸術文化の最先端の街であったヴェネツィアのみならず文化的後進国であったドイツにまで大きな影響を及ぼしました。
参考書
通奏低音を学ぶために参考になる本の情報です。
・カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ 正しいクラヴィーア奏法 第二部
そんな彼が書き残したクラビーア奏法の手引書は、楽器奏法のみならず音楽の真髄を語っています。
・ゲオルク・フィリップ・テレマン 通奏低音の練習 -歌いながら、弾きながら-
残念ながら2016年7月現在は絶版となっていますが、バロックの3大作曲家の一人、テレマンによる通奏低音の学習書です。もし手に入れることができれば、テレマンのフルート作品を勉強する上でも大いに役立つでしょう。
余談ですが、上述のカール フィリップ エマニュエル バッハの「フィリップ」は、テレマンにちなんで名付けられました。
・和声―理論と実習 (3)