楽曲分析 ドビュッシー『フルート、ビオラ、ハープのためのソナタ』第1楽章♯1
今回はドビュッシーの晩年の傑作、『フルート、ビオラ、ハープのためのソナタ』の分析を行ってゆきます。
作曲の背景から、曲の和声的分析、構造について考察します。
クロード・アシル・ドビュッシー(Claude Achille Debussy、1862-1918)
は、『「牧神の午後」への前奏曲(1892-1894)』や『ペレアスとメリザンド(1893-1902)』をはじめとした中期の傑作によって、近代から現代へつながる音楽の扉をひらきました。
彼の作曲技法は当時の人々にとって革新的で大胆なものであり、多くの作曲家に影響を与えました。
晩年は大腸癌を発病し、死を意識しつつも『様々な楽器のための6つのソナタ』の作曲を始めます。
まず1つ目のソナタである、
『チェロとピアノのためのソナタ(1915)』
が完成、続いて
『フルート、ビオラとハープのためのソナタ(1915)』
そして、
『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(1917)』
を作曲し終え、残りの3曲、
『オーボエ、ホルンとクラヴサンのためのソナタ』
『トランペット、クラリネット、バスーンとピアノのためのソナタ』
『コントラバスと様々な楽器のためのコンセールソナタ』
は未完のままこの世を去りました。
フルート、ビオラ、ハープという珍しい編成は、のちの多くの作曲家が同じ編成の曲を書くほど魅力的でありますが、構想時には『ヴァイオリン、コールアングレ、ピアノ』、もしくは、『フルート、オーボエ、ハープ』のためのソナタとしても構想されていました。
最終的にフルート、ビオラ、ハープという編成に落ち着きますが、時折見えるパストラーレのフレーズ(3-6小節間ビオラ)や、ハープのために書かれたようなフレーズをフルートで奏でる(12小節目)など、作曲者が楽器編成に悩んだと思われる箇所が、当初の構想を浮かび上がらせます。
さて、『ソナタ』と名付けられた曲ではありますが、古典的ないわゆるアレグロソナタ形式ではありません。
今回分析する第1楽章の表題Pastorale(牧歌)からも推察できるように、フランスバロックの室内ソナタ(Sonata da Camera)を意識して作曲されたようです。
曲前半5つの小さな楽節が、変イ長調の中間部後の再現部でバラバラな順番に並び変えられています。
※楽譜をお持ちでない方は、こちらからIMSLPの無料楽譜をご覧いただけます。
全体は、
A-B-C-D-E-中間部-B’-D’-E’-C’-A’-D’
という自由な形で構成されています。
A(1-3)
冒頭増4度音程から始まる神秘的かつどこか悲しい響きの、第5音が上下に変位された(g→ges,gis=as)和音がFドリア旋法上に展開するA。
この第5音が上下変位された和音は、19世紀の作品によく用いられます。
ここではエンハーモニック(異名同音)により、gisがasと表記されていますが機能は同じです。
3度、4度音程の目立つ部分動機をMotiv a(以下Ma)とします。
わずか1小節のハープ、フルートのメロディー内に増4度、長、短2度、長、短3度、完全4、5度が含まれていることも注目です。
音階の基本的な音程が全てこの短い1小節間に含まれており、この神秘的なメロディーを構成しているのはドビュッシーの工夫でしょうか。
第3小節目では上下変位された5度上の和音がmollとDurを揺れ動きます。
B(4-8)
第3小節終わりからタイで繋がれ浮かび上がるビオラの旋律。
doux et pénétrant
ドミナント風な増三和音とはっきりしない解決のあるパストラーレ風な旋律の中に、この曲を支える大事な動機Mbがあります。
第7小節ではフルートのペンタトニック(五音音階)の旋律と、ハープの和音が5度和音を形成し、明るいB-Dur,13の和音の不思議な響きを生み出します。
b-f-c-g-d-a-e
機能としてはF-durのサブドミナント的な役割を果たしています。
ハープのバス旋律ではモチーフb(以後Mb)が現れています。
第8小節ではハープのバスの重要なモチーフMb上で、フルートがランディーニ終止のように3度上行して解決します。
明らかなドミナントの響きのする和音から解決する際、あえて導音をそのまま解決させない彼の工夫がこの曲には随所にちりばめられています。
作曲の背景から、曲の和声的分析、構造について考察します。
作曲の背景
クロード・アシル・ドビュッシー(Claude Achille Debussy、1862-1918)
は、『「牧神の午後」への前奏曲(1892-1894)』や『ペレアスとメリザンド(1893-1902)』をはじめとした中期の傑作によって、近代から現代へつながる音楽の扉をひらきました。
彼の作曲技法は当時の人々にとって革新的で大胆なものであり、多くの作曲家に影響を与えました。
晩年は大腸癌を発病し、死を意識しつつも『様々な楽器のための6つのソナタ』の作曲を始めます。
まず1つ目のソナタである、
『チェロとピアノのためのソナタ(1915)』
が完成、続いて
『フルート、ビオラとハープのためのソナタ(1915)』
そして、
『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ(1917)』
を作曲し終え、残りの3曲、
『オーボエ、ホルンとクラヴサンのためのソナタ』
『トランペット、クラリネット、バスーンとピアノのためのソナタ』
『コントラバスと様々な楽器のためのコンセールソナタ』
は未完のままこの世を去りました。
フルート、ビオラ、ハープという珍しい編成は、のちの多くの作曲家が同じ編成の曲を書くほど魅力的でありますが、構想時には『ヴァイオリン、コールアングレ、ピアノ』、もしくは、『フルート、オーボエ、ハープ』のためのソナタとしても構想されていました。
最終的にフルート、ビオラ、ハープという編成に落ち着きますが、時折見えるパストラーレのフレーズ(3-6小節間ビオラ)や、ハープのために書かれたようなフレーズをフルートで奏でる(12小節目)など、作曲者が楽器編成に悩んだと思われる箇所が、当初の構想を浮かび上がらせます。
さて、『ソナタ』と名付けられた曲ではありますが、古典的ないわゆるアレグロソナタ形式ではありません。
今回分析する第1楽章の表題Pastorale(牧歌)からも推察できるように、フランスバロックの室内ソナタ(Sonata da Camera)を意識して作曲されたようです。
曲前半5つの小さな楽節が、変イ長調の中間部後の再現部でバラバラな順番に並び変えられています。
※楽譜をお持ちでない方は、こちらからIMSLPの無料楽譜をご覧いただけます。
1楽章の構成
大きく分けて自由な3部構成の作品です。
各動機は以下のように分けられます。
第1部
A 1~3 B 4~8 C 9~13 D 14~17 E 18~25
中間部 (第2部)
26~49
再現的後半部(第3部)
B’ 50~56 D’ 57~62 E’ 63~65 C’ 66~71 A’72~77 D’ 78~83
全体は、
A-B-C-D-E-中間部-B’-D’-E’-C’-A’-D’
という自由な形で構成されています。
分析
A(1-3)
冒頭増4度音程から始まる神秘的かつどこか悲しい響きの、第5音が上下に変位された(g→ges,gis=as)和音がFドリア旋法上に展開するA。
この第5音が上下変位された和音は、19世紀の作品によく用いられます。
ここではエンハーモニック(異名同音)により、gisがasと表記されていますが機能は同じです。
3度、4度音程の目立つ部分動機をMotiv a(以下Ma)とします。
わずか1小節のハープ、フルートのメロディー内に増4度、長、短2度、長、短3度、完全4、5度が含まれていることも注目です。
音階の基本的な音程が全てこの短い1小節間に含まれており、この神秘的なメロディーを構成しているのはドビュッシーの工夫でしょうか。
第3小節目では上下変位された5度上の和音がmollとDurを揺れ動きます。
B(4-8)
第3小節終わりからタイで繋がれ浮かび上がるビオラの旋律。
doux et pénétrant
ドミナント風な増三和音とはっきりしない解決のあるパストラーレ風な旋律の中に、この曲を支える大事な動機Mbがあります。
第7小節ではフルートのペンタトニック(五音音階)の旋律と、ハープの和音が5度和音を形成し、明るいB-Dur,13の和音の不思議な響きを生み出します。
b-f-c-g-d-a-e
機能としてはF-durのサブドミナント的な役割を果たしています。
ハープのバス旋律ではモチーフb(以後Mb)が現れています。
第8小節ではハープのバスの重要なモチーフMb上で、フルートがランディーニ終止のように3度上行して解決します。
上の楽譜が原曲、下が古典的な音の解決をした場合のものを想定してみました。 |