歌口とその形状

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歌口とその形状

シュヴェードラー『フルートとフルート奏法』



唇と歌口



 充実した音量、音の発音の容易さと、フルートの音色の性格は、楽器本体や奏者の唇による物ではなく、その大部分は歌口の穴が適切な形をしているかによる。

同じように、歌口の形状がフルートの音色にとって最も影響する部分ということは、歌口の形は、各奏者に合った形状である事が望まれる。

しかし、さまざまな理由で各奏者に合った形の歌口をいちいち作ることを実現する事は難しい。

そのために、フルート奏者は、その歌口が彼にとって理想であると思い我慢し、その歌口に自分の唇を合わせなければならなかった。


歌口の大きさ


 トラヴェルソやバロックフルートなどの昔の楽器は、たいてい歌口は小さすぎるのに対し、現代の楽器はしばしば必要以上に大きいと思う。

それゆえ多くの奏者は、歌口の大きなフルートは充実した、また力強い音を出す事が出来ると思い込んでいる。

だから、たいてい新しい楽器を買う際にはそのような大きめの歌口が選ばれる。

しかし、大きい歌口を持つフルートは、息を制限無しに無駄に浪費する事は考慮されない。

また大きな歌口のために、下唇でさらに歌口を覆うことが必要になり、適切な歌口の大きさは再び狭められ、同様に演奏不可能となる。


 そのためまず歌口に必要なのは、歌口の内側の形は、フルートの管体の内径との比率を適切に保っていることである。

そして歌口の外側の形は、息の流れを受け入れるために適する形にしなければならない。




レフォームフルートの歌口。両脇に隆起がある。

レフォームフルートのリッププレートを横から見た図。


レフォームフルート


これらの問題を解決するのには、私が知る上で一番完璧なものがエアフルト(ドイツ、チューリンゲン州都)のフルート職人クルスペ(C.Kruspe)が採り入れた楕円形の歌孔に、その脇を高くしたものである。

この隆起は、下唇のいわば続きの部分を形作る。

この隆起が、息がわきから漏れて無駄に浪費することを防ぐだけでなく、よりたやすいコントロールと、歌口の脇で空気を圧縮することも目的とする。

特に低音域において、たやすい音の発音と驚くほど力強い音、それが一番わかりやすいこの歌口の成果である。



歌口の隆起の長所



 これらを証明するために私は確実な根拠をもつ。

これらの隆起が何よりも円錐管フルートにとって適しているだろう。

またベーム式フルート(円筒管)の良い音色は練習鍛錬を通して得られるが、レフォームフルートではまず第一にそのような難しい楽器の微妙な調節能力がこの隆起によってさらに良くなる。





頭部管の角度



歌口のエッジ、および管体の中を流れる空気の流れが音を作り出している。

もっとも重要な事は、息の流れは一定の正確な角度で歌口のエッジに当たり、そこで分かれ、その分裂により生まれた両者の空気の流れがお互いに一定な割合にあることである。

あまりにもたくさん空気を管体に吹き込むと(それはいっそう歌口を内側に向ける事で達成される)、そうすることで生じるのは弱々しく犬がクンクン鳴いたような音であると感じるだろう。

それに反して、外側へ向けた歌口にあまりにも多量の息を通せば、ほとんどの音や音階が上手く演奏出来ないと感じるであろう。

そういうわけでより鋭い、またよりぼやけた音色は、歌口のエッジや歌口の内壁の削り方により変化し、より正確に規則的にコントロールされた息の流れにより、楽器の持つ音色はいっそう明瞭になる。



この事はどのオルガン製作家も知っている。

彼らは、オルガンの管に吹き込まれた息がまっすぐ、唇管(オルガンの歌口Oberlabium)のへりの鋭角に向かってあたるようにパイプを製作する。

 それゆえ、とあるフルート製作家のように奇妙なアイデア、もっと正確に言うと誤解に基づき、頭部管の歌口の縁を高くする事をやめることで、『著しく容易な音の形成』と『力強さに満ちた音』を作ろうとすることは、私には理解出来ない。

 実際にはこれらのうさんくさい物は若い初心者を取り込むだけのものであった。

圧縮機(Quetschen)(頭部管の内側で圧迫した(Einwärtsdrücken des Kopfstückes)※訳注:クーパーカットの事か?)は誘惑したが、熟練した奏者に利用されることは全く無かった。

この歌口を使うことで『良い成果』を得た者は、隆起した歌口の縁に向かってムラの無い正確な角度に息を吹き込むことができるのであり、もし歌口にこれらの装置を使わなくても同様に『良い結果』を得られるであろう。

 このような事柄を判断するためには理論的な知識だけでは充分ではないし、いくらかフルートを吹く、あるいは昔吹いていたなどではまるで話にならない。

まさに長い時間の経験、実践での詳細な試験、それから日々の様々な機会、同僚や生徒の種々の歌口の作用を観察する事のみ、偏見の無い判断が可能となる。

私が先に紹介したクルスペの歌口の適切な隆起が下唇の自由な活動を妨げると、もしも誰かが主張するなら、それは彼がただ単に利用法を間違えているだけだと証明しよう。

またもし彼を詳細に調べたら、私のこの本の内容(『音の出し方(アンブシュア)』参照)を理解していなかった事がわかるであろう。

それゆえ、ここに明確に強調しておこう。

10mmの幅、および11mmの長さのクルスペの歌口の隆起は、アンブシュアを固定するための支えを作るのではなく、下唇と歌口との適切な距離での接触で、息の流れの堤防の役割を果たす。




歌口に息を吹き込む際の注意



 傾いた息の流れはとても良くない状態である。それは音の質を強く侵害し、またレガートで跳躍したインターバルが続くと、奏者に必要ない努力の原因となる。フルート奏者に多く見られるのが、上顎を突き出し、歯の位置が傾いた状態である。

(挿絵2、傾いた息の流れ)



 歌口のそれらの誤りは息の流れに向けられるであろう。

あるいは傾いた位置になるであろう。

たいてい左に向けて息が吹かれる。

それゆえ、息の流れは歌口の中央に当てられるにもかかわらず、歌口の位置は同様に左向きにとられなければならない。


 この位置の角度を見つけるために、楽器製作者のライプツィヒのカール・クルスペ(Karl Kruspe 前述C.クルスペの息子)は、取り外し可能な歌口を作らせた。

それらを通して歌口に隆起をつけることは「傾いた息の流れ」が起こった歌口を取り除くことが立証された。


 薄い下唇の、あるいは下顎の引っ込んだ(もしそのせいで歌口を傾けて押しつけることが問題になっているなら)フルート奏者を補正させるために、頭部管にゴムで出来た下地を固定することは廃れた。


 この歌口はあまりにも厚い下唇にも同じようにミリメートル単位で幅と長さを調節出来る。しかし普通はこの埋め合わせは必要ない。
なぜなら、要領の良いの良い学生は、簡単に他の歌口にもなじむからである。







訳注:シュヴェードラーが自身で開発したフルートでの演奏は、当時のフルートには驚異的なほど低音から高音までエネルギーに満ちたものであったそうです。
フルートの歌口に隆起がついたものは、現代でも用いられており、ゴールウェイ、レングリ、フォルミザーノ、バイノンなどのトッププレーヤーがそのような楽器を用いています。
頑なに歌口についている隆起を否定している方もいますが、トッププレーヤーたちの音色は素晴らしいものであり、シュヴェードラーの先見性に感心します。



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