3時間のフルート練習メニュー。デボスト推奨の時間割


ベルリンフィルハーモニー首席奏者エマニュエル・パユが若き頃、パリ音楽院で学んだミシェル・デボスト教授は、著書「フルート演奏の秘訣〈下〉」で毎日のフルート練習に関して次のように記しています。

”練習の質のほうが練習時間よりも重要である。時計は罪責感をなだめるためにアリバイの役をする。”(前掲書308ページ)

これほど理性的なフルーティストはいないとパユに言わしめたデボストですが、限られた練習時間をできるだけ効率的に、かつ最大限に成果をあげられるよう詳細に練習計画を記しています。

今回の記事では、毎日のフルートの練習時間をどのように割り当てれば良いのか、デボストの練習メニューを参考に考察してゆきます。

3時間のフルート練習メニュー。デボスト推奨の時間割


3時間の練習時間を、デボストは具体的にどのように割り当てるべきか以下のように書いています。

レパートリーの点検  10分
音階         30分
響きと跳躍      30分
日課練習       1時間
練習曲とレパートリー 50分

レパートリーの点検


まずレパートリーの点検では、今練習している曲を通して演奏しましょう。

音出しやロングトーンなどのウォームアップは、まだこの段階では行ないません。

さらっている曲によって、この時間は多少増減します。

演奏会のつもりで止まらないようにします。

そして演奏後、上手くいかなかったところに印をつけておきましょう。

音階


レパートリーの点検が終わり、上手く演奏出来なかった箇所に印をつけたら、ようやく基礎練習をはじめます。

タファネル・ゴーベールの「タファネル/ゴーベール 17のメカニズム日課大練習」の第4番の音階を様々なアーティキュレーション、リズムを変えて2回通します。

デボストの音階練習のメニューは音楽之友社から「練習ノート」として出版されていましたが、絶版になって久しいです。

本を持っていない方は参考までに、私の作った音階練習を参考に色々とアーティキュレートやリズム、テンポやダイナミクスを変えてみると良いです。

参考: 音階練習、タファネル=ゴーベール第4番をモデルに、リズムやアーティキュレーションの変化

響きと跳躍


響きと跳躍では、「ライヒャート 毎日の練習Op.5」の第2、4番の分散和音を、レガートに注意してゆっくり練習します。

楽譜を持っていない方は、こちらからIMSLP(ペトルッチ国際楽譜ライブラリープロジェクト)の楽譜を無料でダウンロードできます。

ライヒャートのフルート作品より、日課練習Op.5

日課練習


日課練習では、タファネル・ゴーベールの日課第練習の第6番(3度と6度の音階)と第10、15番の分散和音を練習します。

練習曲とレパートリー


練習曲とレパートリーでは、一番初めのレパートリーの点検で印をつけたところを、リズムを変えてゆっくりと丁寧に練習しましょう。

このやり方が、もっとも効率的かつ確実に難しいフレーズを演奏できるようになるための秘訣です。

必ずゆっくりとしたテンポで、身体から余分な力を抜き、音が滑らかにつながるように練習します。

はじめは退屈かもしれない練習ですが、何日かすれば効果がはっきりと現れてくる事が実感できるかと思いますので、諦めずに行ってください。

その他


時間が余った時には、初見やオーケストラスタディを練習しましょう。

練習の前に確認しておくこと


1.どう考えてもできない事を目標にしない


難しい練習曲をいくつもさらうより、無理なくできる少しやさしめの練習曲をさらう法が効率的、かつ得られるものが大きので上達も早いです。

挑戦する事は良いのですが、それを続けていくとモチベーションの低下が起こりやすく、また得られる事も努力の割には少ないので、自分のレベルにあった練習を見直す必要があります。

2.基礎練習は音楽的に練習する


音階や分散和音、エチュードは音楽的に練習しましょう。

ほとんどの音楽は、音階と分散和音から出来ています。

いつもミスをしてしまう箇所は、音楽的に、常に良い響きで演奏するようにしましょう。

例えば、ロングトーンは音出しではなく、自分の音を美しい音色にするための練習です。

音階や分散和音も、指の練習ではなく音楽の最も基礎的な練習です。

3.譜読みはしっかりと


譜読みができていない曲を、何度も通して吹いてばかりいても、上手く演奏できるようにはなりません。

曲の構造、伴奏や他の楽器が何をしているか、和音はどうなっているか、旋律のどこを目指してフレーズを作るか等々、しっかり譜読みしてから練習しましょう。

楽器を触っている時だけが練習ではありません。

楽譜を見ながら好きな奏者のCDを聴き、気がついたことをどんどん楽譜に書き込んで行くことも勉強になります。

4.初見力をつける


初見とは、知らない曲を楽譜を見てすぐに練習せずに演奏する事です。

初見力をつければそれだけ譜読みが早くなり、譜読みにかける余分な時間を演奏表現にかけることができます。

初見が上手くなるコツは、とにかく初見を沢山することです。

演奏する前に1分ほど楽譜を見て、テンポや調の変化、難しそうな箇所を確認しておきます。

初見を始めたら、間違えても止まらず、とにかく最後までたどり着きましょう。

友人にフルーティストがいれば、テレマンなどのバロックのフルートデュオを初見大会をしてみるととても楽しいです。

一人でやる場合は、簡単なエチュードを初見で演奏してみる事はとても有益です。

5.メトロノームをつけっぱなしにして練習しない


メトロノームを上手く使う事は良い練習になります。

しかしいつもメトロノームに頼って練習していると、メトロノーム無しで演奏する時にリズムが取れないという事が起こります。

ぜひ自分の身体で、良いリズムを取れるように練習しましょう。

おわりに


以上、デボストの著書で勧められている練習時間割をまとめてみました。

もちろん人それぞれさらわなくてはならない事は違うので、この通りにする必要は全くありません。

あくまでもこれらは目安にし、自分にあったやり方を見つけてみてください。


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