暗譜をする際に意識すること
今回は暗譜するコツついて書いてゆきます。
私が大きな影響を受けた二人
私は暗譜だけは得意です。
記憶力に関して、歴史、単語、年号、その他もろもろのことは全く憶えられないのですが、楽譜に関しては割とすぐに覚えられます。
昔はそこまで暗譜に対して自信を持っていませんでしたが、コツを掴んでからはどんな曲でも暗譜できるようになりました。
記憶力に関して、歴史、単語、年号、その他もろもろのことは全く憶えられないのですが、楽譜に関しては割とすぐに覚えられます。
昔はそこまで暗譜に対して自信を持っていませんでしたが、コツを掴んでからはどんな曲でも暗譜できるようになりました。
暗譜のやり方に関して、私が大きな影響を受けた二人の音楽家を紹介します。小澤征爾とグレン・グールドです。二人がどのように音楽に向き合っていたのかを知ってからは、暗譜をするということに対して考え方が変わりました。
小澤征爾
小澤さんがまだ学生だったころ、師匠の齋藤秀雄に厳しく鍛えられていたことは有名な話です。
私が特に印象に残っていることは、小澤さんが齋藤秀雄のレッスンで、ベートーヴェンの交響曲を全部楽譜に書き出さなければならなかったという話でした。
ベートーヴェンの交響曲をスコア1ページ分を覚えることすら、私にとっては気の遠くなる話ですが、それを何百ページも覚えて、1音も間違えずに書き出すためには、膨大な勉強、音楽に対する理解、そして記憶力が必要です。
指揮者の中には時々、音源を聴いてなんとなく曲を憶え、拍子が変わったり楽器の移り変わりやテンポの変化だけ憶えて、あとは政治力と演奏会での大げさなパフォーマンスだけでやっている方も何度か見たことがありますが、世界でやっていくにはそのようなやり方は通用しないでしょう。
小澤さんが長年にわたり世界の第一線で活躍している理由は、才能はもちろんのことながら、恐ろしいほどの勉強に裏付けられていることに間違いないでしょう。
そう思ってフルートの楽譜をみると、伴奏譜でもたった3段しかありません。
グレン・グールド
カナダの第ピアニスト、グールドは奇行で有名でしたが、彼はどんな曲も暗譜で演奏していました。現代曲はもちろんのこと、ユーディー・メニューインとの共演の際にもシェーンベルクのバイオリンとピアノのための幻想曲も、初めての合わせの時にすでに完全に暗譜していたそうです。
グレン・グールドCD全集 |
彼は普段ほとんどピアノを弾かず、いつも楽譜を読んでいました。彼曰く、頭の中の鍵盤を頭の中で弾いて練習した方が上手くいくそうです。
そのやり方は、彼がまだ神童として名を馳せていた子供の頃に、とある演奏会で暗譜が飛んでしまい、当時の師匠から、曲を徹底的に分析し憶えることを義務付けられたそうです。
暗譜のやり方
どんなに記憶力が良くても、暗譜のやり方が悪ければ本番で暗譜が飛んでしまうことがあります。
緊張したり、お客さんのたてる雑音で集中が途切れたりと、普段と違う状況で起こりうるアクシデントに備える必要があります。
また、私のように記憶力が全くない人間でも、やり方を覚えてしまえば暗譜は難しいことではないのです。
1、楽器を持って練習する時には、積極的に楽譜を見ない
まず、多くの方が陥りがちなのは、指で記憶するやり方です。これは、曲を何度も通しているうちに覚えるというやり方です。
このやり方で上手くいっているなら問題はありませんが、私は少し工夫をしています。
それは、初めて曲を練習する段階から、積極的に楽譜を見ないようにするというやり方です。
もちろん、初めてさらう曲は楽譜を知らないので、そんなことは当然不可能です。そのために次のやり方を見てください。
2、楽器を持たないで楽譜を読む
故岩城宏之氏がエッセーの中で、ストラヴィンスキーの春の祭典を暗譜した時のことを書かれていましたが、彼は楽譜を写真のように映像として記憶したそうです。
私は残念ながらそのような能力を持ち合わせていないので、どのようにしたらそのようなやり方ができるのか見当もつきません。
私は楽曲分析を繰り返して曲の技法を深くまで掘り下げて理解することで記憶しています。
特に、動機が曲の中でどのように使われ展開されているかを理解したり、和声を分析することで曲を憶えることがはるかに楽になります。
またそうすることで、勢い任せの非音楽的な解釈をしないで済みます。逆に、
考えすぎていてつまらないとも言われる原因にもなることがあるので、日々修行です。
暗譜する意味
以前は暗譜はリストやパガニーニのようなヴィルトゥオーゾ達が、技術を見せびらかしたり聴衆を驚嘆させるために暗譜で演奏していました。
しかし現代の音楽解釈では、作曲家の書いたことを忠実に表現しなければならないことがほとんどです。
そのためには暗譜はするメリットは特になく、暗譜するための練習をするなら他の練習をしなさいと考えている方もいます。
しかし、最近の若い指揮者の中には小節番号や練習記号まで憶えていて、練習の際にも楽譜を見ない方もいます。
彼らにとって暗譜することはそこまで大変なことではなく、ちゃんとしたやり方をすれば正確に暗譜でき、またその音楽を理解し消化するためにも暗譜は必要なことであると考えられています。もちろん、有り余る才能も必要ですが。
決して、カッコ良く見せたりお客さんを驚かすことが第一の目的ではないと思います。中にはそのような方もいらっしゃるとは思いますが。
それだけ暗譜に対する考え方は変化し、多様化しています。
おわりに
まずは、楽器を持たずに楽譜をひらき、なんでも良いので最初から最後まで目を通して読んでみましょう。
頭の中や声に出して歌ってみたり、気になる箇所について考えてみたり、色々と自分なりに試行錯誤することが大切です。
そして、日常、歩いている時、家事をしている時、電車に乗っている時、携帯をいじる代わり等、ふとしたときにさっき見た楽譜のことを考えてみると記憶が強化され、暗譜が確実に確かなものになります。
また、折に触れて楽曲分析のやりかた、楽式論、和声法などの作曲のテクニックを少しかじってみると、より楽譜を読むのが楽しくなります。