どの版がおすすめ?モーツァルト『フルート協奏曲ト長調KV.313』の伴奏譜の比較
モーツァルトのフルート協奏曲はフルート作品の中でも、最も多くの異なる版が出版されています。
アーティキュレーションやカデンツ、そして最も異なるのが伴奏譜でしょう。
今回は伴奏譜をいくつか紹介し、それぞれの特徴について書いてみます。
2.ペータース(1966) 5:04~,
3.旧ベーレンライター(1986) 9:58~,
4.新ベーレンライター(2003) 14:54~,
5.ブライトコプフ(2006) 19:50~
6.ヘンレ(2000) 24:45~,
7.ブライトコプフ&ヘルテル(1894) 29:41~
1、シリンクス(1992年)
数あるピアノ伴奏譜の中で最も演奏しやすいと個人的に思うものは、シリンクス社から出版されているこの伴奏譜です。
ピアノ編曲、アーティキュレーション校訂などはRichard Müller-Domboisが行なっています。カデンツはついていません。
フルートパートのアーティキュレーションもなかなか興味深く、かなり使える楽譜ですが、ところどころ和音が変更されているので注意が必要です。
現在、日本国内では手に入れることが難しくなっている楽譜です。
出版社のサイト(ドイツ語)
2、ペータース(1966年)
ピアノ伴奏に関して個人的に感じることは、音が若干厚すぎるのでピアニストはかなりバランスに神経を使うことになります。
フルートの伴奏に慣れていないピアニストだと、フルートの音がピアノの音でかき消されてしまう恐れがあるので気をつける必要があります。
3、ベーレンライター(1986年)
以前かなり普及していた楽譜です。
原曲のオーケストラ伴奏をかなり忠実にピアノに移し替えたため、伴奏の音が厚すぎて正確に演奏することはほぼ不可能です。
演奏する際にはピアニストは音を省く必要があります。
演奏のためというより勉強のためにこの楽譜を購入するくらいなら、スコアを見た方が良いかと思われます。
4、新ベーレンライター(2003年)
旧版の伴奏譜があまりにも演奏しづらかったためか、新版ではピアノアレンジャーも変え、かなり演奏しやすいものを目指したようです。
カデンツもかなりの力の入れようで、別冊になって楽譜に付随していますが見たことはあるでしょうか。
しかし若干演奏しづらい音型や、冒頭の悪趣味な左手の伴奏など個人的にはあまりおすすめしません。
いい意味でも悪い意味でも、ドイツ的な匂いがかなり強い楽譜だと個人的に思っています。
5、ブライトコプフ(2006年)
演奏者としてだけでなく、研究者としても第一線で活躍するヘンリク ヴィーゼの校訂です。
元になった楽譜の掲載、詳細な序文、豊富なカデンツァなど、現在出版されている楽譜の中でもおそらく最も信頼できる版だと思います。
ただしピアノ伴奏譜は若干弾きづらい音型が多く、新ベーレンライターと似たようなものです。
6、ヘンレ(2000年)
個人的な感想ですが、おそらくフルートの伴奏をよくするピアニストが最も使っている版はこのヘンレ版かと思われます。
冒頭の独特な伴奏形は個人的には好みではありませんが、トゥッティーの部分とソロの部分のバランスがとてもよく考えられています。
ただし、例えば第38小節目の3拍目など、時々おかしな音型が出てくるので音符を書き足してやる必要があります。
7、ブライトコプフ、ヘルテル(1894年)
著作権の切れたこの楽譜は、様々な出版社から再出版されていますが、IMSLPに無料で公開されているのでわざわざ購入する必要はないでしょう
IMSLPのリンク
100年以上前の楽譜とあって、ピアノ伴奏譜におかしなアーティキュレーションの書き込みがあったり音がかなり厚かったりします。
現代ではもっと良い版を利用した方が、聞き映えもしますしピアノ伴奏者にも負担はかかりません。
まとめ
私が個人的におすすめするのは、シリンクス版の伴奏です。
まず何よりも弾きやすく、音もかなり薄いので演奏者の余計な負担がかなり減ります。
伴奏の音が厚くなると、フルートの場合には繊細な表現が不可能になりますし、ピアニストはテンポを保つことが難しくなってきます。
演奏する際にフルートのことだけに目を向けるのではなくピアニストにも配慮すれば、より一層良い演奏になると思っています。
またどの版にもそれぞれ長所、短所があり、どれを使うかはそれぞれの奏者の好み次第です。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。