音がかすれる時に見直したい、フルートのアンブシュアの作り方と練習

音がかすれる時に見直したい、フルートのアンブシュアの作り方と練習

 フルートで音を出すために、アンブシュアの形は非常に重要です。

アンブシュアの形が安定していないと、音がかすれたり、低音や高音がうまく出ない原因になってしまうことがあります。

しかしいくら形が重要だからといって、中心からずれているアンブシュアを鏡を見ながら直してみてもなかなか思い通りに音が出ないことが多いと思います。

私たちが普段しゃべる時には、いちいち口の形を意識しながら声を出す事は少ないでしょう。

同じように、フルートを吹く時にもアンブシュアの形を意識するよりも、自分にとって自然なやり方で吹いた時の方が良い音が出ます。

今回の記事では、アンブシュアについて基礎知識から、より良いアンブシュアにするためにはどのような練習をすれば良いのかあれこれ書いてみました。

アンブシュアとは?


アンブシュア』とは、フルートを吹くときの唇の形のことで、フランス語『embouchure』です。

アパチュア』とも呼ばれることがありますが、アパチュアとは唇の穴のことを指します。

アンブシュール』などとも表記されることがあります。

鏡を見ることをやめよう


アンブシュアほど個人差が出る身体の部分はないでしょう。

一般的に日本人の唇は西洋人よりも厚く、フルートを吹くと唇に息の圧力がかかり、さらに厚くなったように見えることがあります。

私がフルートを始めたばかりのまだ初心者だった頃、大きな悩みの一つが、「自分の唇がフルートに向いていないせいで良い音が出ないのではないか?」ということでした。

フルートを吹く姿を鏡を見てみると、明らかに唇が厚く感じました。

多くのフルート教則本を読むと、「唇は薄い方がフルートに向いている」などと書かれています。

うまく音が出なくて鏡を見ては、「私の唇が厚いから上手くいかないのかしら」などと思ったり、フルートを吹くときに唇が薄くなるように試してみたりしました。

どうやったら良い音が出るアンブシュアになるか、先生や上手な先輩に聞いてみると、「にっこりするようにほおを引いて」とか、「リラックスして、口の端を下げて」などと人それぞれ違う意見が返ってきます。

プロになった今ハッキリと自信を持って言えることですが、アンブシュアは人それぞれに異なりますし、唇の厚さや形による向き不向きはありません。

そして、こうやりなさいと言われたやり方を守ったからといっても、良い音が出るかどうかはあまり関係がないと感じます。

良い音が出て自分が吹きやすいのであれば、アンブシュアが曲がっていようがズレていようが、それを変える必要は全くありません。

アンブシュアの見た目に騙されてはいけないということは、初心者だった頃の自分に最も伝えたいことです。

現代最高のフルート奏者の一人エマニュエル・パユがパリ音楽院時代に学んでいたミシェル・デボストは、著書『フルート奏法の秘訣』の中で、フルーティストのロバート・コールがウィリアム・キンケイドに受けたレッスンの言葉を引用しています。

"『最初のレッスンで、キンケイドは私(ロバート・コール)のアンブシュアがちょうど真ん中に来ていないと注意した。実際にそれは完全に曲がっていた。彼は私に、練習中鏡を見てアンブシュアを中心におくようにといった。翌週のレッスンのとき、私はアンブシュアを正しく中心にあてた。ところが全然コントロールが利かなかった。彼は少し考えてから、私のもともとの位置にアンブシュアをおかせて、いろいろな音(フォルテ、ピアノ、高音、低音)を出させた。けっきょく、私のやり方でやるようにといった。何年もたって、私は彼のもとに呼び出された。彼は聴講生たちと話しあっている最中だった。彼らに正しいアンブシュールについて質問されていたのだ。キンケイドは私に、彼らの前で演奏するように頼んだ。『うまくいきさえすればいいんだ』と彼は、生徒たちに答えたと思う。』"

アンブシュアの役割


いかにフルートに向いている唇を持っていても、フルートを上手く吹けるかどうかはまた別の話です。

フルートの音色にはアンブシュアが重要だと思いがちですが、本当に大事なのは身体や息の使い方です。

アンブシュアはその補助的役割にすぎません。

デボストは前述の著作『フルート演奏の秘訣』の中で、アンブシュアは車のハンドルのようなものだと書いています。

いくらハンドル(アンブシュア)が立派でも、貧弱なエンジンを積んでいてはスピードを自在にコントロールすることができず、良い車とは言えないでしょう。

良い車とは良いエンジンを積んだ車です。

良いエンジンとはフルートの場合、良い息の支えと言えるでしょう。

フルートの音色はアンブシュアで作るものではなく、お腹の底からよく支えられた息から良い音が作られます。

良いアンブシュアの作り方と練習


良いアンブシュアを作るための練習では、まず鏡を見ることはやめましょう。

自身の身体の感覚と耳を使って、どうすれば良い音が出るのか模索してゆきます。

まず息の通り道(アパチュア)をできるだけ小さく作り細くて速い息を出す練習から始めます。

音色は初めは、か細くてなんだかネズミの鳴き声のような音になっても構いません。

「速い息」とも言われますが、吐き出す空気の圧力を高めにすることを意識しましょう。

そこから少しづつ息の通り道を大きくしてゆき、良い音が出る大きさを見つけてください。

この方法は、息が長く続かない悩みを持つ方にも効果的です。

息があまり長く続かない時にはたいていの原因はアンブシュアにあります。

息の通る孔が大すぎるので速い息を出すために大量の空気が必要となってしまうのです。

アパチュアを狭めることでより少ない息を高い圧力で出すことができ、結果的に速い息となります。

先生によく、もっと速い息で!と言われる方もこのやり方を試していただければ改善するでしょう。

やみくもに唇を引いたりすぼめたりすることよりも、アパチュアを小さくするように意識すると効果的です。

循環呼吸


循環呼吸を練習すると、アンブシュアのよい訓練になります。

やり方は以下の記事をご参照ください。

循環呼吸の練習方法と、毎日の簡単な練習方法

ホイッスルトーン


ホイッスルトーンを練習すると、アンブシュアがかなり安定しますのでお勧めです。

ホイッスルトーンは普段フルートで音を出すときより、かなり繊細なブレスコントロールが要求されるのでぜひ毎日の練習に5分ほど取り入れてみてください。

練習方法の詳細は、以下の記事のホイッスルトーンの項目で解説していますので参考になさってください。


世界一のフルートテクニックを持つブリアコフのアンブシュア


アンブシュアが真ん中でない奏者にデニス・ブリアコフがいます。

彼のテクニックはまさに世界一と言い切っても過言でないくらいずば抜けていますが、彼のアンブシュアは曲がっています。

それでも、余分な息漏れ音もせず、驚異的なコントロールで低音から高音域まで演奏しています。

見た目が整ったアンブシュアよりも、自分が自然にフルートを吹けるかどうかを重視して練習した方が良いでしょう。



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