木管フルートの扱いとオイリングについて
特に木管フルートの音色や吹き心地は演奏中に水分を吸して変化してゆくため、扱いには細心の注意が必要になってきます。
この記事は、木管フルートを扱うための注意と、コンディションを維持するためのオイリングに関する内容となっています。
木管フルートの扱いについて
木管フルートを扱う場合、金属のフルートよりも注意しなければならない点があります。
特に湿気や温度に対して適切に扱わないと、楽器が割れてしまいます。
フルートを吹いていると特に管内に水分が溜まってゆき、木材はその水分を吸収してしまいます。
水分を吸うと鳴りが悪くなったり、微妙な形状の変化から吹奏感に影響が出てきます。
新しい木管フルートの場合は木の内部が乾燥しているため、内部の木材が水分を吸って膨らみ、外部がその圧力に耐えきれずに亀裂が入ることがあります。
少しずつ水分を木の内部に浸透させるため、楽器を買ってから半年間は特に演奏時間を20分程度に抑えておく必要があります。
半年経ってからは1週間ごとに少しづつ演奏時間を伸ばしてゆきましょう。
木管フルートは、長時間演奏すると調子が悪くなってしまうので、1日に最大2時間程度に抑えておいた方が良いでしょう。
気温と湿度
寒い場所で木管フルートを演奏すると、管内が急激に温まって膨らみ、冷たい管の外側が圧力を受けるので割れてしまう可能性があります。
息をゆっくりと吹き込むと同時に、外側も温める必要があります。
演奏後には湿気をよく取り、ケースにしまってからしばらく蓋を開けておいた方が良いでしょう。
逆に乾燥しすぎている場合にも割れてしまうことがあるので、湿度や温度に注意して保管しておきましょう。
オイリングについて
オイリングとは、木管フルートの内外部にオイルを塗ることです。
管内にオイルを塗ることで、木材が水分を過度に吸収することを防ぎます。
その他、木には繊維があるため、表面の凸凹をオイルで埋めることで音や吹奏感に影響を与えます。
フルートのオイリングに使われる油はいくつか種類があります。
ここでは代表的なオイルをご紹介しますが、ここに掲載されているもの以外のオイルも使われます。
オイルの種類
木管楽器には、主に植物性油が使われます。
鉱物性由来のオイルは人体に悪影響を及ぼす可能性があり、使われることはあまりありません。
さて、植物性オイルには、乾性と不乾性、半乾性のものがあり、これはオイルに含まれるヨウ素価によって決まります。
乾性のものは時間が経てば酸化して乾き、不乾性のものは時間が経っても乾きません。
以下、フルートに使われる代表的なオイルをご紹介します。
アーモンドオイル
木管フルートに最もよく使われるのは、アーモンドオイルでしょう。
クヴァンツも『フルート奏法試論』の中で、フルートに塗るオイルはアーモンドが良いと書いています。
アーモンドオイルは半不乾性油ですので薄く塗り、二時間ほど置くと乾きます。
アーモンドオイルは化粧用と食用のものがあります。
私は以前、化粧用のアーモンドオイルを使用して唇がかぶれたことがあるので、食用のものを用いることをお勧めしています。
オリーブオイル
スーパーで簡単に手に入るため、オリーブオイルもよく使われます。
オリーブオイルは不乾性油のため乾かず、ベタベタとするのでキーのついているモダンフルートには向いていないと思います。
独特の匂いもあり、音色もパサつくためお勧めしません。
リンシードオイル
リンシードオイルとは亜麻仁油の事で、乾性油です。
家具や木材の表面の保護によく使われ、トラヴェルソなど古楽器にも用いられます。
リンシードオイルはボイルされたものと、熱を加えずに圧搾されたコールドプレスがありますが、コールドプレスされたものを用いることが一般的です。
また、リンシードオイルにオレンジオイルを少し混ぜると木材によく浸透するので、混ぜて使われることもあります。
リンシードオイルが乾くのに2週間ほどかかり、完全に硬化するまで2ヶ月近くかかるのであまり実用的ではありません。
完全に乾く前に使用すると、楽器内部がベタベタとしてしまうので注意が必要です。
ボアオイル
楽器専用のオイルが、楽器メーカーからボアオイルとして販売されています。
ボアオイルには、植物性と鉱物性のものが混ぜられていることがあります。
アレルギーがある方は、特に注意が必要です。
ベビーオイル
薬局で簡単に手に入るため、一部の楽器メーカーはベビーオイルを推奨しています。
私は使用したことが無いため、効能は不明です。
ホホバオイル
ホホバオイルは、オイルという名称ですが主成分はワックスエステルです。
酸化しづらく安定しているため、化粧品にも用いられています。
一部のオイルマニアの間で熱狂的な支持を得ているオイルです。
不乾性です。
オイリングの効果
実は明確に効果があるかどうかは、科学的には結論が出ていません。
私の個人的な実験の結果では、あまり効果が無いと思いますが、楽器メーカーによっては木管にオイリングすることを推奨しています。
私の長年の木管フルートを演奏してきた経験上では、念入りにオイリングした楽器も一時間も演奏すれば、かなり変化を感じられます。
一部の実験では、オイリングしても木材には水分が染み込んでしまうことが判明しています。
蜜蝋ワックス
オイリングにはあまり効果が無いなと感じ、何か有効なものが無いかと色々試した結果、蜜蝋ワックスを用いることにしました。
蜜蝋とは、蜂の巣の搾りかすを濾過して綺麗にしたものです。
口紅に用いられたり、コムハニーとして食用としても利用される安全なものです。
蜜蝋自体は硬いのですが、オイルを混ぜて柔らかく塗布しやすくしたものを利用します。
蜜蝋を塗った木材は、オイリングしたものよりも遥かに防水性に富んでいます。
蜜蝋の欠点としてはグラナディラなどの黒い木材に蜜蝋を塗ると、若干茶色がかった黒色に変色します。
私は蜜蝋にリンシードオイルが混ざったものを利用しています。
まずたっぷりと楽器に塗り、20分ほど経ってから残った蜜蝋を乾いたキッチンペーパーで拭います。
その後、五時間ほど乾燥させます。
楽器表面に光沢が出て、音やレスポンスも良い状態になります。
オイリングの頻度
オイリングの頻度は、木材の表面が乾いてきたと感じてきたら塗るようにします。
新しい楽器は週に2度ほど、半年以上使い込んで来れば週1度くらいで良いかと思いますが、これも個人の好み次第です。
オイリングの注意点
塗った布や紙をそのまま放置していると、油が酸化する際に熱が出て発火する危険性があります。
必ずガラスなどの密閉容器に布を入れて保管する、もしくは水分を含ませてから捨ててください。
布を放置したことが原因で火事になることが多々あります。
また、キーにオイルが付かないようにする必要があるため、ボディーをオイリングする場合には全てのキーを外してから行なう必要があります。
頭部管をオイリングする際には、反射板やコルクを外してから行なうことが推奨されています。
オイルがコルクの劣化を早めてしまうためです。
私自身は面倒なので、コルクは外さないでやっていますがあまり問題ないです。
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— 佐藤直紀🇨🇿笛僧 (@fuesou) June 19, 2022