楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法

ライプツィヒ・ゲヴァントハウスオーケストラで19世紀に活躍したフルーティスト、マクシミリアン・シュヴェードラーは、著書『フルートとフルート奏法』のなかで指の訓練について述べています。

確実なテクニックのための指の練習

この記事では、シュヴェードラーの練習方法をさらに発展させてみました。

私がまだ学生だった頃、色々な国のオーケストラのオーディションを受けにいきました。

オーディション前日に飛行機や電車などで移動して会場のそばのホテルに到着し、充分に練習できないままオーディションで演奏しなければなりませんでした。

そのため、音が出せないホテルでも何か効率的な練習ができないか、試行錯誤の末にできたのがこの練習方法です。

今ではフルートを演奏する前に毎回この練習をすることで、指が良いコンディションになると感じています。



練習を始める前に、いくつか注意点


手は構造上、何かをつかむ方向にはスムーズに動きますが、逆に手を広げる動作は少し難しく感じるでしょう。

指をうまく上げる事をコントロールできないと、楽器で速いフレーズや滑らかな演奏が難しくなります。

さっそくこの練習を始める前に気をつけていただきたいのは、くれぐれもやり過ぎてはいけないということです。

もし、手に痛みが出てきたらすぐにやめてください。

また、やりすぎて手が疲れてしまうと逆に指が動かしづらくなってしまいます。

指を疲れさせるのではなく、あくまでも軽い準備体操程度に行なってください。

大作曲家シューマンは若かりし頃、器具を使って自分の指を鍛えようとしすぎた結果、指を壊してしまいピアニストとして演奏活動する事ができなくなってしまいました。

シューマンのように手を壊さないよう十分に注意を払い、くれぐれも自己責任で練習してください。

指番号と楽譜の割り当て


各指には、以下のように番号を割り当てています。

楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法
番号だけでは楽譜が読みにくかったので、音も割り当てました。

1 ド  親指
2 レ  人差し指
3 ミ  中指
4 ファ  薬指
5 ソ  小指

ステップ1:まずは指一本ずつあげる練習


まずは片手の指を一本づつ、ゆっくりと脱力してあげることを心がけてください。


楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法


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やり方は以下のとおりです。

・まず手を軽くにぎります。
・そして指をゆっくりと一本ずつ上げてゆきます。

テンポは、♩≒60
楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法の楽譜

ポイント


  • できるだけ他の指が一緒に上がったり動かないないようにしてください。
  • 手の甲や腕に力が入ってしまわないように脱力するように心がけてください。脱力して指を動かすことがとても重要です。
  • 薬指は特に上げづらいのです。何週間か訓練すればだんだんと上がるようになるので、無理に上げようとしないでください。ストレッチをする感覚で、逆の手で軽く引っ張り上げてください。くれぐれも神経を痛めないように、強く引っ張ることは厳禁です。

ステップ2以降が難しい方は、このステップ1を練習するだけでもかなり効果があります。

楽器を演奏する前などに、準備運動として練習するのがおすすめです。

ステップ2:指を交互に


次は指を交互に動かしてみましょう。

楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法

薬指と小指や、薬指と中指を交互に上げるのが難しいと感じるかもしれません。

くれぐれも無理やりに指を上げようとせず、手を脱力してゆっくりと上げる練習を続けてみましょう。

ステップ3:順番に全ての指を上げる


全部の指を交互に上げたら、次は以下の譜例のように順番に全ての指を上げてみましょう。

楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法の楽譜

ステップ4:リズムをつけて練習


今度はリズムをつけて指を上げてみましょう。
楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法


この際にも、腕から指先まで脱力することを忘れないようにしてください。

以下のリズムと、指の組み合わせで練習してみましょう。
楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法の楽譜
楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法の楽譜

ステップ5:指を二本同時に


一本ずつ指が上がるようになったら、今度は二本ずつ動かしてみます。

楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法

慣れるまではかなり難しいのですが、ゆっくりと動かしてください。

まずは簡単な練習から初めてみましょう。

楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法

次は、1本指と同じようにリズムをつけながら2本同時に練習してみましょう。

楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法の楽譜
楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法の楽譜

難しい組み合わせ


毎日指を鍛えるためには上記の練習だけで十分ですが、さらに指を鍛えたい方のために少し難しい組み合わせをご紹介します。

楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法


まずは、5本の指を全て使った練習です。


楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法の楽譜

次の組み合わせも、単純に見えますが難しいです。


楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法の楽譜

最後は1本と3本指の組み合わせです。


楽器がなくてもいつでも簡単にできる、指のトレーニング方法の楽譜


以上になります。

繰り返しになりますが、これらの練習は常にリラックスし、ゆっくりと片手づつやると効果的です。

練習記号一つごとに片手ずつ練習すると、手に疲れがたまりづらくなります。

あくまでも指を上げる速度より、手を脱力することを心がけてください。

また、くれぐれもやりすぎないように注意してください。

練習時間は一度に数分程度に抑え、、一度にたくさんやるよりも何度か小分けに練習するほうがはるかに効果的です。

おまけ1。その他の指の訓練方法


指の訓練方法に関する情報は、本でもインターネット上でもたくさん見つかります。

例えばトリルは指を早く動かすために必要な伝統的な練習方法の一つです。

往年の名手、ジャン=ピエール・ランパルは、インタビューであなたのように指が素早く動くようになるためには何をすればよいか?と聞かれ、トリルを練習する事と答えていました。

確かにトリルを練習すれば、指を正確にコントロールし、素早く動くようになるでしょう。

タファネル=ゴーベールの『日課大練習』の最後もトリルのための練習となっています。

タファネル=ゴーベール『日課技術大練習』より、 第17課トリルのための練習

おまけ2。フルートの超絶技巧についての考察


現代のフルートはベーム式という、非常に合理的なキーシステムを持った楽器です。

ベーム式が発明される以前のフルートの運指と較べて、はるかに難しいパッセージを演奏する事ができるようになりました。

そのため多くのフルートのための作品では、技巧的なフレーズが出てきます。

特に後期ロマン派以降の作曲家は、ベームが開発したフルートの能力を限界まで引き出そうとしたため、フルート奏者にはかなり難しいフレーズが要求されるようになりました。

例えばマーラーやリヒャルト・シュトラウスの作品には、ベーム式フルートでないと演奏することがほぼ不可能なフレーズが出てきます。

ベーム式フルートの普及がドイツ=オーストリア圏よりもはるかに早かったフランスでは、現代のほぼ完成された楽器でも演奏することが難しいフレーズを要求されます。

次のサン・サーンスの「鳥かご」のフレーズは、速い指使いと正確なタンギングが要求され、現代のフルート奏者も苦しめられます。

サン=サーンス『動物の謝肉祭』より「鳥かご」

難しいパッセージの作品を演奏する時には、音楽性のみならず素早い指のテクニックが要求されます。

音楽性は、音楽家が人生の中で経験したり感じた様々な情感を、芸術表現として長い期間をかけて洗練する必要があります。

しかし指のテクニックに関しては、正しく訓練すれば比較的短い期間に確実に上達します。

おまけ3。難しいフレーズの練習方法など


フルートの難しいパッセージに出会ったとき、どのように練習しているでしょうか。

良くない練習方法の例では、

1,上手く演奏出来ないような難しいフレーズを何度も繰り返す
2,ミスしても特に気にせず先に進んでしまう

という事が起こりがちです。

このような練習方法を繰り返していると、ミスを身体が覚えこんでしまい、次に演奏した時にも同じ箇所で失敗をしてしまいます。

正しい練習方法は、

1, 難しいパッセージはゆっくりしたテンポで練習
2, フレーズのリズムを変えて練習
3, 手でリズムをとりながら、音名を歌ってみる

などです。

しかし、どんなに丁寧にさらっても、演奏する事の出来ないフレーズに出会う事があります。
このような時にはどう練習すべきでしょうか。

たとえば次のリゲティのフレーズは、人間の指の運動能力の限界まで要求されます。

リゲティ:「室内協奏曲」第3楽章の難しいパッセージ

解決方法としては、次の2つが考えられます。

替え指

1つ目の解決方法は替え指です。

替え指の一覧に関しては以下の記事にまとめてあります。


フルートの場合、特に3、4オクターブの指遣いは難しいので、次のジョリヴェの例のように倍音を使った替え指がよく使われます。

ジョリヴェ『リノスの歌』より、最後のパッセージ

上のリゲティの例では、トリルキーも利用し複雑な替え指を使う事で、通常の運指ではほぼ演奏不可能なパッセージも演奏する事ができます。

替え指でも上手くできない時、2つ目の解決方法は指の基礎的な運動能力を高めることです。

おわりに


私の試した限りでは、トリルの練習だけでは指の訓練に限界がありました。

1日に1度、フルートを吹いている時にのみ練習するだけではあまり効果が無いように感じました。

もっと指を速く正確に思い通りに動かすことはできないか試行錯誤した結果、前述の通り練習方法が出来上がりました。

移動中や椅子に座っている、寝転んでいる等、どんな時にも出来るので空き時間にぜひ試してみてください。


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