音のベーブング(ヴィブラート)

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音のベーブング(ビブラート)とは


音のベーブングとは、音楽を演奏するときに最も大切なものであり、感情を心から表す方法でもある。
ベーブングは、フルート演奏に表現力の豊かさを加えるためには欠かせないものである。
しかしその利用は常に制限されている。
それゆえ過度にベーブングを利用すると、演奏に弱々しい印象を与え、また、精神や深い感情を表現するどころか、感傷的な、泣きじゃくっているようなものに悪化する。

 バイオリンやチェロなどの弦楽器にとって、またギターやツィターなども同じように、弦を抑えた指を素早く揺り動かす事によって音のベーブングを生み出す。
しかし管楽器奏者は、歌手の、気品に溢れより美しさに満ちた音を出せる身体の器官、すなわち声帯を用いてベーブングを発生させる。

 管楽器奏者にとって音のベーブングを習得することは簡単ではない。その他の才能はあっても、声帯によるベーブングを行う能力が足りないという管楽器奏者に、私は少なくとも何度も出会った。

演奏にベーブングがないと確実に味気ないだけでなく、またその音色も美しくない。
ベーブングが無い演奏は、音の暖かさや力強さも音のベーブングと一緒に無くなってしまった事が明らかになるはずである。

 ベーブングにとって必要であるのは、ただ声帯を少し圧縮し声門をわずかに狭めることで、肺から出た息の柱が圧縮し、いわば吐き出す息の圧力が強くなり、より濃密(訳注:速い息)になる事である。それによって音量がより大きくなり、さらに内面的な力(訳注:感情表現)が表現されることが可能になる。


ベーブングの習得方法


これで音をベーブングするために必要な身体のつかい方は明らかになったが、そこでまず疑問が思い浮かぶ。

どのように音のベーブングを習得するか?

多くの人は音のベーブングを過度に、またいつも見境なしにつかう歌手(彼らはヤギのようにメエメエ啼く)だというが、本来はメエメエされたeまたはäの音が、演奏中に耳に聴こえないようにすべきなのである。


中、高音域はフルートの音のベーブングに最適である

それゆえこの音域でベーブングを練習することは、学習者にとって練習のときには最も有益であろう。

練習方法について私は次の提案をする。

フルートの歌口を唇にしっかり当て、ある音、例えば、Dの音を吹いている間、メエメエした声帯の動きの利用する。(訳注:日本語でヤギの鳴き声はメエメエと表記されますが、ドイツ語ではMäh Mähです。”エーエー”に近い感じでしょうか。)

 メエメエすることにより声門を素早く狭めたり広げたりし、音をほとんど喉で区切って途切れるよう演奏する。

これらは荒削りの生の状態で、初めは美しくない印象を受け、またきつい練習になる。

そこからだんだんと軽く、わからないくらい少しだけ声帯を動かすことことを学んでゆき、さらに立派な声楽家のような音のベーブングに近づき、長い時間とともに美しいベーブングが用いることができるようになり、目標を達成出来るであろう。

際限なく過剰に、最も間違った場所で音のベーブングを用いることに私はもう一度忠告したいが、生き生きとした情熱的な感情表現がくるべきところでの自然なベーブングの利用を勧める。私はまた言い添えておく。私自身、とにかく上記の音のベーブングの練習方法を行ったが、その他全ての方法で、古い学習作品のなかに示された解説は理にかなっていないと考える。


訳注:(※ベーブングとはドイツ語でヴィブラートの事を指しますが、シュヴェードラーは『音のベーブング』、あるいは単に『ベーブング』と記しているので、ここではそのままベーブングと訳しました。)

シュヴェードラーはヴィブラートをいかに用いるべきか、またどうやって練習すればヴィブラートがうまくかけられるようになるのか、ここでは練習方法や実践方法を解説しています。
彼が現代から100年近くも昔におこなったヴィブラートに関する考察は目をみはるものがあります。
彼が最後に書いている「私自身、とにかく上記の音のベーブングの練習方法を行ったが、その他全ての方法で、古い学習作品のなかに示された解説は理にかなっていないと考える。」とは、お腹でヴィブラートをかけるといった誤った認識や忠言に対しているのでしょう。

のちにヨッヘン・ゲルトナーが1973年に著した『フルート奏者のヴィブラート』(Jochen Gärtner"Das Vibrato bei Flötisten")の中で、シュヴェードラーの実践方法を取り上げ、シュヴェードラーが全く正しかったことを医学的根拠をあげ証明しています。
ゲルトナーの提唱したヴィブラートの具体的なやり方については、『上手なビブラートがかけられるようになる練習法まとめ+楽譜』をご覧ください。


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